一本のピアノ線が切れて
ひとつだけ音の出ない
ピアノのような感覚を
日々堪えないままに
僕は無くした音の行方を探していた
ある日、そんな僕を見て
君はしかめた面で言った
それ以前にあなたの音楽は
つまらない、と
僕は死んだ
覚えがたい昨日のこと
僕は死んだ
博愛じみた偽善者のように
僕は死んだ
今日も回るか、世界という何かは
僕は死んだ
夏花の咲く前のこと
僕は死んだ
君はまだ美しいままか
僕は死んだ
生き間違えた言い訳を探すように
僕は死んだ
忘れがたい青春のこと
不機嫌そうにしないでほしい
僕は僕を語る場所さえもなく
それ故に
問わずにはいられなかった
朝の寝言だ
もう既に辺りは騒がしい
夢に濡れた額の上で
溺れた魚が
まだ新しく跳ねている
窓の外では
夜の屍を踏む間抜けな太陽が
したり顔で輝いている
裏切りの水曜日が
木曜日に変わったが
カレンダーはめくらない
偽りの金曜日が
土曜日に変わったとしても
カレンダーはそのままだ
不機嫌そうにしないでほしい
世界は生きているし
僕も生きている
ただ、死んでいたとしても
それは同じことなんだ
名もない国の
誰も知らない街で
そっと、言葉を綴っていた
春に芽生えるための種を食べながら
冬眠の準備をする狸を見て
逃げ道を探すかのように
僕は言葉を巡らせる
汚れることを嫌うなら
詩人で在り続けなければならない
もしも昨日に、この足跡が消えたとしても
もしも明日に、僕が死んでしまおうとも
地球は回ることを止めはしない
時の流れを意識して
遠い空に言葉を届ける
秋風に煽られて消えてしまう表現が
街の片隅で咲いていられるように、と
遙かなる未来を尋ねて
僕は
名もない国の
誰も知らない街で
そっと、言葉を綴っていた
醜くなってしまった
汚くなってしまった
月曜日の君よりも
金曜日のあなたよりも
醜くなってしまった
汚くなってしまった
3月のわた雲よりも
9月のヒマワリの種よりも
醜くなってしまった
汚くなってしまった
最初に手首を切った日よりも
5番目に手首を切った日よりも
醜くなってしまった
汚くなってしまった
母に絵本を読んでもらった夜よりも
好きな人に詩を書いて
見せてあげた朝よりも
醜くなってしまった
汚くなってしまった
あの日の君よりも
あの日のあなたよりも
ずっと
ずっと
なんてことはない
それは朝には消えてなくなるだけの
眠りの一晩に過ぎなかった
なんてことはない
すでに犬は遠吠えも飽きてしまって
月は静かに光っている
なんてことはない
僕たちはまだ月を見ていて
君たちはまだ眠りの中に居て
きっと悪い夢でも見ているのだろう
人間の刻むべきわずかな歳月は
永遠とはほど遠い
刹那的なものだけれど
永遠に近い時間の流れが
宇宙にあるのならば
夜空を見上げ続けるだけの夜も
間違いではないのかもしれない。
古びたノートの切れ端に
小さい頃描いた落書きが残っている
不格好にしっぽを丸めた
猫のイラストが笑っている
すでにそれが
過ぎた時間に消え
人生で何の意味も持たないことを
僕は知っているが
しかし何故だか、新鮮であり
輝きに満ちている
かつて見た夢を思い出す
まだ夜と朝の間にある月を
知らなかった日のこと
その日も一匹の猫が居た
不格好にしっぽを丸め
こちらを見つめていた
やがて、その猫は
様々な色を持ちより
それぞれの色の名前を
親切に教えてくれた
そして今日も
猫は僕の目の前に居て
不格好にしっぽを丸め
笑っている
もう悲しみだけに従う必要は
ないのかもしれない
おそらく、痛みや悲しみも
悦びや幸せも
全ての色を僕は知っている
古びたノートの切れ端に
小さい頃描いた落書きが残っている
不格好にしっぽを丸めた
猫のイラストが笑っている
その落書きは
紛れもなく詩だと思った
僕はまだ覚えている
星の灯りが
天国の住人たちによって
賑わいを見せていたことを
確かにそれは
滑稽でしかないのかもしれない
だが仮に、命の終着が
冷たい土の中で眠るだけならば
理不尽に奪われた命は何を想い
眠るだろうか
人の汚れに触れ
消された命を想うと
あの夜空にきらめく
ひとつひとつの灯りに
どうしても重ねてしまうものがある
綺麗に生きても
報われることのなかった
魂の痛みを
理不尽に奪われた
魂の悲しみを
この地上で惜しくも
道半ばで朽ちてしまった
生きとし生けるもの達が
最後に笑えるよう
せめて、安らかな場所を
せめて、それらを癒すべき場所を
どうか、せめて
輝く天体に見る
あの天国という場所を
僕はまだ願わせて欲しいのです