2010年9月20日月曜日

ピアノ線

  

一本のピアノ線が切れて
ひとつだけ音の出ない
ピアノのような感覚を
日々堪えないままに
僕は無くした音の行方を探していた

ある日、そんな僕を見て
君はしかめた面で言った

それ以前にあなたの音楽は
つまらない、と




  

2010年9月17日金曜日

死んだ

  

僕は死んだ
覚えがたい昨日のこと

僕は死んだ
博愛じみた偽善者のように

僕は死んだ
今日も回るか、世界という何かは

僕は死んだ
夏花の咲く前のこと

僕は死んだ
君はまだ美しいままか

僕は死んだ
生き間違えた言い訳を探すように

僕は死んだ
忘れがたい青春のこと




 

2010年9月14日火曜日

不機嫌

  

不機嫌そうにしないでほしい
僕は僕を語る場所さえもなく
それ故に
問わずにはいられなかった
朝の寝言だ

もう既に辺りは騒がしい
夢に濡れた額の上で
溺れた魚が
まだ新しく跳ねている

窓の外では
夜の屍を踏む間抜けな太陽が
したり顔で輝いている

裏切りの水曜日が
木曜日に変わったが
カレンダーはめくらない
偽りの金曜日が
土曜日に変わったとしても
カレンダーはそのままだ

不機嫌そうにしないでほしい
世界は生きているし
僕も生きている
ただ、死んでいたとしても
それは同じことなんだ




  

2010年9月10日金曜日

孤独詩

 

名もない国の
誰も知らない街で
そっと、言葉を綴っていた

春に芽生えるための種を食べながら
冬眠の準備をする狸を見て
逃げ道を探すかのように
僕は言葉を巡らせる

汚れることを嫌うなら
詩人で在り続けなければならない

もしも昨日に、この足跡が消えたとしても
もしも明日に、僕が死んでしまおうとも
地球は回ることを止めはしない

時の流れを意識して
遠い空に言葉を届ける

秋風に煽られて消えてしまう表現が
街の片隅で咲いていられるように、と
遙かなる未来を尋ねて

僕は
名もない国の
誰も知らない街で
そっと、言葉を綴っていた




 

2010年9月9日木曜日

厭離

  
 
醜くなってしまった
汚くなってしまった
月曜日の君よりも
金曜日のあなたよりも

醜くなってしまった
汚くなってしまった
3月のわた雲よりも
9月のヒマワリの種よりも

醜くなってしまった
汚くなってしまった
最初に手首を切った日よりも
5番目に手首を切った日よりも

醜くなってしまった
汚くなってしまった
母に絵本を読んでもらった夜よりも
好きな人に詩を書いて
見せてあげた朝よりも

醜くなってしまった
汚くなってしまった
あの日の君よりも
あの日のあなたよりも
ずっと
ずっと





  

2010年9月7日火曜日

一晩

  

なんてことはない
それは朝には消えてなくなるだけの
眠りの一晩に過ぎなかった

なんてことはない
すでに犬は遠吠えも飽きてしまって
月は静かに光っている

なんてことはない
僕たちはまだ月を見ていて
君たちはまだ眠りの中に居て
きっと悪い夢でも見ているのだろう




 

2010年9月5日日曜日

夜空

  

人間の刻むべきわずかな歳月は
永遠とはほど遠い
刹那的なものだけれど
永遠に近い時間の流れが
宇宙にあるのならば
夜空を見上げ続けるだけの夜も
間違いではないのかもしれない。




 

2010年9月3日金曜日

落書き

  

古びたノートの切れ端に
小さい頃描いた落書きが残っている
不格好にしっぽを丸めた
猫のイラストが笑っている

すでにそれが
過ぎた時間に消え
人生で何の意味も持たないことを
僕は知っているが
しかし何故だか、新鮮であり
輝きに満ちている

かつて見た夢を思い出す
まだ夜と朝の間にある月を
知らなかった日のこと

その日も一匹の猫が居た
不格好にしっぽを丸め
こちらを見つめていた
やがて、その猫は
様々な色を持ちより
それぞれの色の名前を
親切に教えてくれた

そして今日も
猫は僕の目の前に居て
不格好にしっぽを丸め
笑っている

もう悲しみだけに従う必要は
ないのかもしれない
おそらく、痛みや悲しみも
悦びや幸せも
全ての色を僕は知っている

古びたノートの切れ端に
小さい頃描いた落書きが残っている
不格好にしっぽを丸めた
猫のイラストが笑っている

その落書きは
紛れもなく詩だと思った




  

2010年9月1日水曜日

天国の灯り

  

僕はまだ覚えている
星の灯りが
天国の住人たちによって
賑わいを見せていたことを

確かにそれは
滑稽でしかないのかもしれない
だが仮に、命の終着が
冷たい土の中で眠るだけならば
理不尽に奪われた命は何を想い
眠るだろうか

人の汚れに触れ
消された命を想うと
あの夜空にきらめく
ひとつひとつの灯りに
どうしても重ねてしまうものがある

綺麗に生きても
報われることのなかった
魂の痛みを
理不尽に奪われた
魂の悲しみを

この地上で惜しくも
道半ばで朽ちてしまった
生きとし生けるもの達が
最後に笑えるよう
せめて、安らかな場所を
せめて、それらを癒すべき場所を

どうか、せめて
輝く天体に見る
あの天国という場所を
僕はまだ願わせて欲しいのです