2010年7月30日金曜日

風は霞む

  

終わりの言葉を知りたい
長く続いているこの夜で
最後の言葉となるべきものを

もう、何も言うなと
口を塞ぐように風は霞む

あえてまだ
光りの予感などなかった
不都合に星を帯びた雲が
昨日を鈍く掴むばかりに
道筋をなしている

人間は死して
夜空を照らす星となるのなら
何の輝きも持ち得ないこの魂も
いつかの夜空で輝くだろうか

もう、何も言うなと
口を塞ぐように風は霞む

こんなにも愚かしい
幾夜もの魂を抱いて
この世に存在していいものか、と
そんな審判の下で
どうか、ふるいにかけて欲しい

もう、何も言うなと
口を塞ぐように風は霞む

もうすぐ不毛な時を
照らしていた月は
不満気にも落ちていくだろう

もう、何も言うなと
口を塞ぐように風は霞む

はじまるはずのない朝が
また無情に始まる

もう、何も言うなと
もう、何も言うなと
口を塞ぐように
風は霞む





  

2010年7月29日木曜日

帆船の上で

  

夜に染まりはじめる場所で
呼吸すら不器用に漂っている何かを見た

残り少ない金色に惹かれ
しわがれに漂う海屑と共に
頼りなく揺れる帆船の上

名もなき冒険者の声が聞こえる
潮風にも似た優しさで
声が聞こえる

しわがれに漂う海屑に
回帰するのは
見覚えのある
いくつかの残骸か

あれはイルカの尾を
追いかけていた朝の残骸か

あれは鳥さえも憧れた
うろこ雲の残骸か

小さな渦潮にのまれながら
世界を知らずに冒険していた
ある日の残骸か

指を伸ばし
その残骸をすくい上げた手の平は
震えている





  

2010年7月28日水曜日

樹木の葉脈

  

やがて、いつからか
昨日が詰まった樹木の葉脈に
閉じこめられてしまった

その憂いた眼差しを
ひたすらに泳がせて
悲しみは何処へ

他者がいじめる
他者が愛してくれる
他者が通り過ぎていく

なにかの忘れ物ばかりが
眉の辺りをかすめて消える
あれらは何処へ

消えてなどくれない風は
ずっとこの瞳で揺らいだまま
君は何処へ

自分の中にいる他者と
他者の中にいる自分と

この夜にある真実は
樹木の葉脈に
閉じこめられてしまった世界で
心は皆、
孤独を詠っているということだけ




  

2010年7月23日金曜日

小さな光

  

小さな朝の光は
誰にも気付かれないよう、密かに灯る

懺悔のための夜が
いくつかの涙を抱えたまま
閑散とした空へ逃げていく

静かな地帯で浮かび上がる心の模様は
輝きの片鱗に触れ、問いかける
命や、愛情や、生や、それら

そうして
眠りを忘れた詩人たちは
言霊が見る夢を追いかけている

小さな朝の光は
誰にも気付かれないよう、密かに灯る

けして触れることの許されない、美しい灯

いつか、正しい心の形を見つける時
その小さな朝の光のようで在ればと、願い

いつか、正しい心の答えを見つける時
その小さな朝の光のようで在ればと、願い

そんなとある静寂

この地球上で、一瞬のひかり




 

節目

  

辛うじて認識できるほどの儚い光を
夜空の片隅に見つけた時
感じることの出来るわずかな共鳴

冷えた季節の中を、新しい空気が流れ
淡い息づかいは、心と世界を繋いでいる

無意識な情景の中で
唐突に重なる思い出の破片を
迷いながらも、拾う作業

季節の節目の夜は
心が揺れる

やがて、さりげなく時は進む




  

2010年7月16日金曜日

傍観者

 

君は君に気付かないふりをして
流れていく

広がる無関係な世界では
おそらく今日も
愛以外の情報が溢れているに違いない

空が青いと言う事しか
この世界について知らなかった

そんな想いは
歳月が奪って行って
季節は流れて行って
今、心に残ってるものは何なのか

様々な場所でうねるように動いている世界の
ひとときの傍観者で在ったこと

自分についても、他者についても
世界についても
生き間違えたようた錯覚を
禁じ得ない人生の中で
見つけてしまった歪みのようなものを
どうか、お許しください




 

2010年7月14日水曜日

5月の叙情

 

昔、頬杖をついて
退屈そうに雨音を留めていた
昼下がりの窓際

あの5月の叙情が
すべての今であって
過去の涙であり続ける

忍びないほど随分と
時は経ったが
打つべきピリオドを
見逃してしまったようで
今も窓際は変わらない

生まれてゆくもの達を
祝福するべきなのか
消えていくもの達を
悲しむべきなのか

無慈悲なまま漂う君は
窓の向こうの
鳥さえ飛ばなくなった空の片割れで
今日も頬杖をついている
時は時を忘れ
過去も未来も生き続け
雨は同じ色で降り続く

昼下がりの窓際
未だにここは
退屈そうに雨音を留めている

この5月の叙情が
すべての今であって
未来の涙であり続ける




  

鎮魂

 

それは、消えそうで消えない
表現という名の灯火を
「詩」という不愉快な行為で
満たしていた季節なんだ。





 

2010年7月13日火曜日

天窓

  

囚われた日を
天窓の隙間に見つけたとして
僕は眺めている
晩から降り続いた雨が
きめ細やかな滴りで朝を覆うまで

囚われた日を
天窓の隙間に見つけたとして
僕は羨んでいる
昨日、通り過ぎた山のふもとで
川のせせらぎに耳をすます蝶々が
夢の中で羽ばたいていたのを

囚われた日を
天窓の隙間に見つけたとして
僕は数えている
憶えてしまった悲しみ以外の感情が
心地よいほどの過ちを
雨の数ほど残しているから

どこまでも連なり
小さな正方形に収められた
ひとつひとつ

囚われた僕も、また
消えることのない
それらすべてを
見つめることしかできなかった

けして触れることのできない
忘れがたい風景を
その天窓の隙間に




  

2010年7月7日水曜日

暮れの海

  

途方にくれた虚しさが
西の彼方に沈んで行く
旅の行く末は
今そんな時
単色の風景が目にしみる

何かもわからない
大切な何かは
波にさらわれた
それは陽に照らされて
暮れの海辺は宝石を
身につけたよう

本当に綺麗な
その海を
見つめては
失ったものを
想う涙
引きつった顔に溜まる油を
流すように
たくさんの涙

もう
このままずっと
泣いていよう
全て洗い流すまで
暮れの海辺も
夜の海辺も
ずっと綺麗でいるだろう
生温い弱さも
全て洗い流すまで
このまま
ずっと泣いていよう




  

2010年7月6日火曜日

その空に

 

凍える風は
雲の彼方へ吹き去っていく
何かを追い求めるように

生や死を
病んだような空が
語りかけている

もしくは病んだ心が
空に語りかけていたのだろう

宛もなく広いその空に

生きることを
死ぬことを
不毛に描いたその空に

その空に




 

悲しみの置き場所

 

描いた悲しみの
置き場所がありません

世界の終わりのように静かな夜は
空っぽのようで
沢山のものが溢れている

月の光すらも届かない夜の片隅まで
くだらない想いで
埋まっている

だから僕は、また一つ
希望を捨てました

もうここには
置き場所がないので
夜空の向こうへ捨てました




 
 

朝の色

 

退廃していく世界を共有していた彼等が
普遍的な夜の終わりのように
この世界から消えてゆく時
次に訪れる朝の色が
彼等の知らない色で在ればいいけれど

変わるはずもない世界は
あまりにも繊細で
あまりにも悲しい




 

遠い想い

 

誓えるはずもない未来を
信じて疑わずに
風の行方を追いかけていた

語れるはずもない愛は
いつでも悲しい色をしている

笑えるはずもない表情で
一体、愛の何を表現出来ただろう

共有出来るはずもない命の孤独を
心の奥に抱えながら

戻れるはずもない過去は
不愉快なものばかりで
記憶から削除したいけれど
そのあまりの美しさに
僕は思い出を手放すことは出来ずにいる