終わりの言葉を知りたい
長く続いているこの夜で
最後の言葉となるべきものを
もう、何も言うなと
口を塞ぐように風は霞む
あえてまだ
光りの予感などなかった
不都合に星を帯びた雲が
昨日を鈍く掴むばかりに
道筋をなしている
人間は死して
夜空を照らす星となるのなら
何の輝きも持ち得ないこの魂も
いつかの夜空で輝くだろうか
もう、何も言うなと
口を塞ぐように風は霞む
こんなにも愚かしい
幾夜もの魂を抱いて
この世に存在していいものか、と
そんな審判の下で
どうか、ふるいにかけて欲しい
もう、何も言うなと
口を塞ぐように風は霞む
もうすぐ不毛な時を
照らしていた月は
不満気にも落ちていくだろう
もう、何も言うなと
口を塞ぐように風は霞む
はじまるはずのない朝が
また無情に始まる
もう、何も言うなと
もう、何も言うなと
口を塞ぐように
風は霞む
夜に染まりはじめる場所で
呼吸すら不器用に漂っている何かを見た
残り少ない金色に惹かれ
しわがれに漂う海屑と共に
頼りなく揺れる帆船の上
名もなき冒険者の声が聞こえる
潮風にも似た優しさで
声が聞こえる
しわがれに漂う海屑に
回帰するのは
見覚えのある
いくつかの残骸か
あれはイルカの尾を
追いかけていた朝の残骸か
あれは鳥さえも憧れた
うろこ雲の残骸か
小さな渦潮にのまれながら
世界を知らずに冒険していた
ある日の残骸か
指を伸ばし
その残骸をすくい上げた手の平は
震えている
やがて、いつからか
昨日が詰まった樹木の葉脈に
閉じこめられてしまった
その憂いた眼差しを
ひたすらに泳がせて
悲しみは何処へ
他者がいじめる
他者が愛してくれる
他者が通り過ぎていく
なにかの忘れ物ばかりが
眉の辺りをかすめて消える
あれらは何処へ
消えてなどくれない風は
ずっとこの瞳で揺らいだまま
君は何処へ
自分の中にいる他者と
他者の中にいる自分と
この夜にある真実は
樹木の葉脈に
閉じこめられてしまった世界で
心は皆、
孤独を詠っているということだけ
小さな朝の光は
誰にも気付かれないよう、密かに灯る
懺悔のための夜が
いくつかの涙を抱えたまま
閑散とした空へ逃げていく
静かな地帯で浮かび上がる心の模様は
輝きの片鱗に触れ、問いかける
命や、愛情や、生や、それら
そうして
眠りを忘れた詩人たちは
言霊が見る夢を追いかけている
小さな朝の光は
誰にも気付かれないよう、密かに灯る
けして触れることの許されない、美しい灯
いつか、正しい心の形を見つける時
その小さな朝の光のようで在ればと、願い
いつか、正しい心の答えを見つける時
その小さな朝の光のようで在ればと、願い
そんなとある静寂
この地球上で、一瞬のひかり
辛うじて認識できるほどの儚い光を
夜空の片隅に見つけた時
感じることの出来るわずかな共鳴
冷えた季節の中を、新しい空気が流れ
淡い息づかいは、心と世界を繋いでいる
無意識な情景の中で
唐突に重なる思い出の破片を
迷いながらも、拾う作業
季節の節目の夜は
心が揺れる
やがて、さりげなく時は進む
君は君に気付かないふりをして
流れていく
広がる無関係な世界では
おそらく今日も
愛以外の情報が溢れているに違いない
空が青いと言う事しか
この世界について知らなかった
そんな想いは
歳月が奪って行って
季節は流れて行って
今、心に残ってるものは何なのか
様々な場所でうねるように動いている世界の
ひとときの傍観者で在ったこと
自分についても、他者についても
世界についても
生き間違えたようた錯覚を
禁じ得ない人生の中で
見つけてしまった歪みのようなものを
どうか、お許しください
昔、頬杖をついて
退屈そうに雨音を留めていた
昼下がりの窓際
あの5月の叙情が
すべての今であって
過去の涙であり続ける
忍びないほど随分と
時は経ったが
打つべきピリオドを
見逃してしまったようで
今も窓際は変わらない
生まれてゆくもの達を
祝福するべきなのか
消えていくもの達を
悲しむべきなのか
無慈悲なまま漂う君は
窓の向こうの
鳥さえ飛ばなくなった空の片割れで
今日も頬杖をついている
時は時を忘れ
過去も未来も生き続け
雨は同じ色で降り続く
昼下がりの窓際
未だにここは
退屈そうに雨音を留めている
この5月の叙情が
すべての今であって
未来の涙であり続ける
それは、消えそうで消えない
表現という名の灯火を
「詩」という不愉快な行為で
満たしていた季節なんだ。
囚われた日を
天窓の隙間に見つけたとして
僕は眺めている
晩から降り続いた雨が
きめ細やかな滴りで朝を覆うまで
囚われた日を
天窓の隙間に見つけたとして
僕は羨んでいる
昨日、通り過ぎた山のふもとで
川のせせらぎに耳をすます蝶々が
夢の中で羽ばたいていたのを
囚われた日を
天窓の隙間に見つけたとして
僕は数えている
憶えてしまった悲しみ以外の感情が
心地よいほどの過ちを
雨の数ほど残しているから
どこまでも連なり
小さな正方形に収められた
ひとつひとつ
囚われた僕も、また
消えることのない
それらすべてを
見つめることしかできなかった
けして触れることのできない
忘れがたい風景を
その天窓の隙間に
途方にくれた虚しさが
西の彼方に沈んで行く
旅の行く末は
今そんな時
単色の風景が目にしみる
何かもわからない
大切な何かは
波にさらわれた
それは陽に照らされて
暮れの海辺は宝石を
身につけたよう
本当に綺麗な
その海を
見つめては
失ったものを
想う涙
引きつった顔に溜まる油を
流すように
たくさんの涙
もう
このままずっと
泣いていよう
全て洗い流すまで
暮れの海辺も
夜の海辺も
ずっと綺麗でいるだろう
生温い弱さも
全て洗い流すまで
このまま
ずっと泣いていよう
凍える風は
雲の彼方へ吹き去っていく
何かを追い求めるように
生や死を
病んだような空が
語りかけている
もしくは病んだ心が
空に語りかけていたのだろう
宛もなく広いその空に
生きることを
死ぬことを
不毛に描いたその空に
その空に
描いた悲しみの
置き場所がありません
世界の終わりのように静かな夜は
空っぽのようで
沢山のものが溢れている
月の光すらも届かない夜の片隅まで
くだらない想いで
埋まっている
だから僕は、また一つ
希望を捨てました
もうここには
置き場所がないので
夜空の向こうへ捨てました
退廃していく世界を共有していた彼等が
普遍的な夜の終わりのように
この世界から消えてゆく時
次に訪れる朝の色が
彼等の知らない色で在ればいいけれど
変わるはずもない世界は
あまりにも繊細で
あまりにも悲しい
誓えるはずもない未来を
信じて疑わずに
風の行方を追いかけていた
語れるはずもない愛は
いつでも悲しい色をしている
笑えるはずもない表情で
一体、愛の何を表現出来ただろう
共有出来るはずもない命の孤独を
心の奥に抱えながら
戻れるはずもない過去は
不愉快なものばかりで
記憶から削除したいけれど
そのあまりの美しさに
僕は思い出を手放すことは出来ずにいる