2010年6月29日火曜日

掲げた手

  

遠い北の彼方に
ひときは輝く光がある
僕は夜空に手を伸ばして
手の平を大きく広げて
そして
親指から
人差し指から
中指から
薬指から
小指から
穏やかに手を握りしめる

光は
あまりにも綺麗で
あまりにも遠い

僕は
手の平を大きく広げて
そして
親指から
人差し指から
中指から
薬指から
小指から
穏やかに手を握りしめる
そして掲げた手を
悲しくおろす

まだ世界は暗い
夢では足りない渇きが
眠りを遠ざける
ひときは輝く光だけが
北の彼方にある

僕は夜空に手を伸ばして
手の平を大きく広げて
そして
親指から
人差し指から
中指から
薬指から
小指から
穏やかに手を握りしめる
そして掲げた手を
悲しくおろす




  

2010年6月26日土曜日

昼下がり

  

休日の昼下がり
空が溶け出したように雨が降る
ハイボールの泡みたいな窓の外
雨音の子守唄は
時計をさかのぼり
いつかの昼下がりの雨を見つめて
頬杖をついた子供を映し出す

僕は
生まれた時から
この景色を覚えている

そして僕は
生涯を終える前夜まで
この悪夢にうなされるのだろう




  

2010年6月16日水曜日

春を詠おう

 
 
疲れた心は穏やかに
季節の流れを見つめてる

今この時も
風景が過去へ変わりゆく実感を
僕は確かめている

すでに夜の終わりが見えている

残り火となった季節の冷たさを
4月の風が暖めていく

穏やさの中で、全てを許し
春を詠おう

癒えない傷に顔を歪める必要もない
遠い場所で季節は流れている

もう僕は
漠然とした死の中にいるのだろう




 

2010年6月15日火曜日

悲しい声

  

今この時に
胸の中で唯一存在する
痛み
大切な何かは
鳥のように羽ばたきゆく
見えぬどこかへと

悲しい声が聞こえるかい
この部屋で爆音のごとく
流れる声が

誰の耳にも届かない
悲しい声
秋の永遠に揺れている声

君は何のために叫ぶのか

今この時に
胸の中で唯一存在する
痛み

悲しい声が聞こえるかい
誰の耳にも届かない
悲しい声が




  

2010年6月14日月曜日

終着

 

星と星とが切り離されて
また一つ、星座を見失った

空は流れ、季節は移り
世界は変化をやめない

茫然と立ち尽くし
何も表現できず、何も生むことなく
時代は過ぎていった

悲しみすらも慣れてしまうほど
夜は過ぎていった

星は新たな光で
空を埋めるだろうか

癒えることのない風穴へ
醜さすらも抱きしめて

もう大丈夫

少し優しい思い出が
胸を掴んで放さないけれど
傷つくだけの毎日に
立ち止まっているくらいなら

終わりへと歩いてゆける




 

2010年6月13日日曜日

夜の歩き方

 
 
幸せの生まれない夜は
空を見上げたくなる

悦びの生まれない夜は
居場所を探すかのように
星を見つけたくなる

笑顔の生まれない夜は
孤独を愛するように
月を見つめたくなる

そんな感傷に寄り添うことで
夜を正当化する日々

もう疲れた

時はいつも間違えることなく
夜を連れてくるけれど
過ぎた夜は空白に近く
何も残ってはいない
何も生まれはしない

悲しみしか生まれない夜が多すぎた
そろそろ新しい夜の過ごし方が必要だ

夜の歩き方を教えてください

夜の歩き方を教えてください

夜の歩き方を教えてください
 


 
 

2010年6月10日木曜日

一つの日常

 
 
いつものように
誰の手も届かない場所で
世界を眺めている
あの雲

心を置き忘れた午後の風景は
過大な演出もない

そこには
等身大の自分と
美しくもなく
汚くもない世界と
狂いそうで狂っていない時間の流れ
そしてあの
雲、雲、雲

それは
夢もなければ
絶望もなく
ただ真実だけを映すように
ただそこに



 

2010年6月9日水曜日

沈んだ夕焼け

 

病みきった想いに触れて
癒せない痛みがそこにある

涙のように沈んでいく空

夕焼けに映し出される
切なさの断片は
儚い余韻を残して
暗い夜へと消えていった




 

言葉と感情

 

今、この空の憂鬱な表情が
心に何かを残してくれるまで
言葉と感情を繋ぎ止めていてください

雲は誰も知らない国へ流れ
刹那的な世界の断片は
言葉を映す暇もなく、流れていく

そして、重ねた悲しみまでも
消えてしまうだろう

もしかしたら、僕が僕で在ることすら
消えてしまうのかもしれない

昨日は空白へと向かっていく中で
明日が眠りを迎えるまで
世界が残してくれる何かを
僕は、忘れないでいられるだろうか

すでに過去へ変わり続ける
今この一瞬は
次の季節へ持っていくことは
出来ないのだから
悦びも優しさも悲しみすらも
全ては時の中で
消えていってしまうものだから

今、この空の憂鬱な表情が
心に何かを残してくれるまで
言葉と感情を繋ぎ止めていてください




 

2010年6月6日日曜日

完結しない物語

 
 
全てを捨て去る時
死が僕にとって唯一の居場所になり
悲しみのない、悦びのない
無表情な大地の傍らで
完全な眠りへと墜ちるだろう

全てを受け入れる時
生という氾濫した渦の中で
悲しみやら、幸せやら、怒りやら
刹那的に生み出され続ける
情報の一つ一つを
処理し続けていかなければ
ならないだろう

死という孤独を
受け入れるか

もしくは、生という孤独に
耐えてゆけるのか

苦悩のない世界は、どこにもなく
永遠に完結することのない物語を
人は歩いていく

共有し合うことの出来ない孤独を
満たしてあげることの出来ない孤独を
どこまでも、どこまでも、と




 

ひとつ

 
 
真夜中の月が照らす先に見えたのは
世界の孤独

満たない感情の隙間を
愛で埋められるのなら
こんな夜は、誰を想おう

いくら見上げても
消えることのない無数の灯りは
おかしいまでに儚く
それでいて優しい

静寂に包まれた世界の粒子までもが
一つ一つ、ひっそりと孤独を詠う

遠い空の向こうに在るであろう朝が
来ないことを願いながら
美しい月の光りに照らされて

こんな夜は、誰を想おう




   

2010年6月5日土曜日

そして

 
 
月の灯りだけが真実になった時
流す涙も乾いていた

全てが風化状態にある世界の終わり
心は弱さを引きづり思考の強さと差が生まれる

僕は悲しかった

人は孤独だった

どんなに意識を外しても
人間の根底にある弱さからは逃れられない

だから、人は表現をする

人は夜空を見上げる

人は人を求める

そして僕は、詩を詠った