遠い北の彼方に
ひときは輝く光がある
僕は夜空に手を伸ばして
手の平を大きく広げて
そして
親指から
人差し指から
中指から
薬指から
小指から
穏やかに手を握りしめる
光は
あまりにも綺麗で
あまりにも遠い
僕は
手の平を大きく広げて
そして
親指から
人差し指から
中指から
薬指から
小指から
穏やかに手を握りしめる
そして掲げた手を
悲しくおろす
まだ世界は暗い
夢では足りない渇きが
眠りを遠ざける
ひときは輝く光だけが
北の彼方にある
僕は夜空に手を伸ばして
手の平を大きく広げて
そして
親指から
人差し指から
中指から
薬指から
小指から
穏やかに手を握りしめる
そして掲げた手を
悲しくおろす
休日の昼下がり
空が溶け出したように雨が降る
ハイボールの泡みたいな窓の外
雨音の子守唄は
時計をさかのぼり
いつかの昼下がりの雨を見つめて
頬杖をついた子供を映し出す
僕は
生まれた時から
この景色を覚えている
そして僕は
生涯を終える前夜まで
この悪夢にうなされるのだろう
疲れた心は穏やかに
季節の流れを見つめてる
今この時も
風景が過去へ変わりゆく実感を
僕は確かめている
すでに夜の終わりが見えている
残り火となった季節の冷たさを
4月の風が暖めていく
穏やさの中で、全てを許し
春を詠おう
癒えない傷に顔を歪める必要もない
遠い場所で季節は流れている
もう僕は
漠然とした死の中にいるのだろう
今この時に
胸の中で唯一存在する
痛み
大切な何かは
鳥のように羽ばたきゆく
見えぬどこかへと
悲しい声が聞こえるかい
この部屋で爆音のごとく
流れる声が
誰の耳にも届かない
悲しい声
秋の永遠に揺れている声
君は何のために叫ぶのか
今この時に
胸の中で唯一存在する
痛み
悲しい声が聞こえるかい
誰の耳にも届かない
悲しい声が
星と星とが切り離されて
また一つ、星座を見失った
空は流れ、季節は移り
世界は変化をやめない
茫然と立ち尽くし
何も表現できず、何も生むことなく
時代は過ぎていった
悲しみすらも慣れてしまうほど
夜は過ぎていった
星は新たな光で
空を埋めるだろうか
癒えることのない風穴へ
醜さすらも抱きしめて
もう大丈夫
少し優しい思い出が
胸を掴んで放さないけれど
傷つくだけの毎日に
立ち止まっているくらいなら
終わりへと歩いてゆける
幸せの生まれない夜は
空を見上げたくなる
悦びの生まれない夜は
居場所を探すかのように
星を見つけたくなる
笑顔の生まれない夜は
孤独を愛するように
月を見つめたくなる
そんな感傷に寄り添うことで
夜を正当化する日々
もう疲れた
時はいつも間違えることなく
夜を連れてくるけれど
過ぎた夜は空白に近く
何も残ってはいない
何も生まれはしない
悲しみしか生まれない夜が多すぎた
そろそろ新しい夜の過ごし方が必要だ
夜の歩き方を教えてください
夜の歩き方を教えてください
夜の歩き方を教えてください
いつものように
誰の手も届かない場所で
世界を眺めている
あの雲
心を置き忘れた午後の風景は
過大な演出もない
そこには
等身大の自分と
美しくもなく
汚くもない世界と
狂いそうで狂っていない時間の流れ
そしてあの
雲、雲、雲
それは
夢もなければ
絶望もなく
ただ真実だけを映すように
ただそこに
病みきった想いに触れて
癒せない痛みがそこにある
涙のように沈んでいく空
夕焼けに映し出される
切なさの断片は
儚い余韻を残して
暗い夜へと消えていった
今、この空の憂鬱な表情が
心に何かを残してくれるまで
言葉と感情を繋ぎ止めていてください
雲は誰も知らない国へ流れ
刹那的な世界の断片は
言葉を映す暇もなく、流れていく
そして、重ねた悲しみまでも
消えてしまうだろう
もしかしたら、僕が僕で在ることすら
消えてしまうのかもしれない
昨日は空白へと向かっていく中で
明日が眠りを迎えるまで
世界が残してくれる何かを
僕は、忘れないでいられるだろうか
すでに過去へ変わり続ける
今この一瞬は
次の季節へ持っていくことは
出来ないのだから
悦びも優しさも悲しみすらも
全ては時の中で
消えていってしまうものだから
今、この空の憂鬱な表情が
心に何かを残してくれるまで
言葉と感情を繋ぎ止めていてください
全てを捨て去る時
死が僕にとって唯一の居場所になり
悲しみのない、悦びのない
無表情な大地の傍らで
完全な眠りへと墜ちるだろう
全てを受け入れる時
生という氾濫した渦の中で
悲しみやら、幸せやら、怒りやら
刹那的に生み出され続ける
情報の一つ一つを
処理し続けていかなければ
ならないだろう
死という孤独を
受け入れるか
もしくは、生という孤独に
耐えてゆけるのか
苦悩のない世界は、どこにもなく
永遠に完結することのない物語を
人は歩いていく
共有し合うことの出来ない孤独を
満たしてあげることの出来ない孤独を
どこまでも、どこまでも、と
真夜中の月が照らす先に見えたのは
世界の孤独
満たない感情の隙間を
愛で埋められるのなら
こんな夜は、誰を想おう
いくら見上げても
消えることのない無数の灯りは
おかしいまでに儚く
それでいて優しい
静寂に包まれた世界の粒子までもが
一つ一つ、ひっそりと孤独を詠う
遠い空の向こうに在るであろう朝が
来ないことを願いながら
美しい月の光りに照らされて
こんな夜は、誰を想おう
月の灯りだけが真実になった時
流す涙も乾いていた
全てが風化状態にある世界の終わり
心は弱さを引きづり思考の強さと差が生まれる
僕は悲しかった
人は孤独だった
どんなに意識を外しても
人間の根底にある弱さからは逃れられない
だから、人は表現をする
人は夜空を見上げる
人は人を求める
そして僕は、詩を詠った