2010年9月20日月曜日

ピアノ線

  

一本のピアノ線が切れて
ひとつだけ音の出ない
ピアノのような感覚を
日々堪えないままに
僕は無くした音の行方を探していた

ある日、そんな僕を見て
君はしかめた面で言った

それ以前にあなたの音楽は
つまらない、と




  

2010年9月17日金曜日

死んだ

  

僕は死んだ
覚えがたい昨日のこと

僕は死んだ
博愛じみた偽善者のように

僕は死んだ
今日も回るか、世界という何かは

僕は死んだ
夏花の咲く前のこと

僕は死んだ
君はまだ美しいままか

僕は死んだ
生き間違えた言い訳を探すように

僕は死んだ
忘れがたい青春のこと




 

2010年9月14日火曜日

不機嫌

  

不機嫌そうにしないでほしい
僕は僕を語る場所さえもなく
それ故に
問わずにはいられなかった
朝の寝言だ

もう既に辺りは騒がしい
夢に濡れた額の上で
溺れた魚が
まだ新しく跳ねている

窓の外では
夜の屍を踏む間抜けな太陽が
したり顔で輝いている

裏切りの水曜日が
木曜日に変わったが
カレンダーはめくらない
偽りの金曜日が
土曜日に変わったとしても
カレンダーはそのままだ

不機嫌そうにしないでほしい
世界は生きているし
僕も生きている
ただ、死んでいたとしても
それは同じことなんだ




  

2010年9月10日金曜日

孤独詩

 

名もない国の
誰も知らない街で
そっと、言葉を綴っていた

春に芽生えるための種を食べながら
冬眠の準備をする狸を見て
逃げ道を探すかのように
僕は言葉を巡らせる

汚れることを嫌うなら
詩人で在り続けなければならない

もしも昨日に、この足跡が消えたとしても
もしも明日に、僕が死んでしまおうとも
地球は回ることを止めはしない

時の流れを意識して
遠い空に言葉を届ける

秋風に煽られて消えてしまう表現が
街の片隅で咲いていられるように、と
遙かなる未来を尋ねて

僕は
名もない国の
誰も知らない街で
そっと、言葉を綴っていた




 

2010年9月9日木曜日

厭離

  
 
醜くなってしまった
汚くなってしまった
月曜日の君よりも
金曜日のあなたよりも

醜くなってしまった
汚くなってしまった
3月のわた雲よりも
9月のヒマワリの種よりも

醜くなってしまった
汚くなってしまった
最初に手首を切った日よりも
5番目に手首を切った日よりも

醜くなってしまった
汚くなってしまった
母に絵本を読んでもらった夜よりも
好きな人に詩を書いて
見せてあげた朝よりも

醜くなってしまった
汚くなってしまった
あの日の君よりも
あの日のあなたよりも
ずっと
ずっと





  

2010年9月7日火曜日

一晩

  

なんてことはない
それは朝には消えてなくなるだけの
眠りの一晩に過ぎなかった

なんてことはない
すでに犬は遠吠えも飽きてしまって
月は静かに光っている

なんてことはない
僕たちはまだ月を見ていて
君たちはまだ眠りの中に居て
きっと悪い夢でも見ているのだろう




 

2010年9月5日日曜日

夜空

  

人間の刻むべきわずかな歳月は
永遠とはほど遠い
刹那的なものだけれど
永遠に近い時間の流れが
宇宙にあるのならば
夜空を見上げ続けるだけの夜も
間違いではないのかもしれない。




 

2010年9月3日金曜日

落書き

  

古びたノートの切れ端に
小さい頃描いた落書きが残っている
不格好にしっぽを丸めた
猫のイラストが笑っている

すでにそれが
過ぎた時間に消え
人生で何の意味も持たないことを
僕は知っているが
しかし何故だか、新鮮であり
輝きに満ちている

かつて見た夢を思い出す
まだ夜と朝の間にある月を
知らなかった日のこと

その日も一匹の猫が居た
不格好にしっぽを丸め
こちらを見つめていた
やがて、その猫は
様々な色を持ちより
それぞれの色の名前を
親切に教えてくれた

そして今日も
猫は僕の目の前に居て
不格好にしっぽを丸め
笑っている

もう悲しみだけに従う必要は
ないのかもしれない
おそらく、痛みや悲しみも
悦びや幸せも
全ての色を僕は知っている

古びたノートの切れ端に
小さい頃描いた落書きが残っている
不格好にしっぽを丸めた
猫のイラストが笑っている

その落書きは
紛れもなく詩だと思った




  

2010年9月1日水曜日

天国の灯り

  

僕はまだ覚えている
星の灯りが
天国の住人たちによって
賑わいを見せていたことを

確かにそれは
滑稽でしかないのかもしれない
だが仮に、命の終着が
冷たい土の中で眠るだけならば
理不尽に奪われた命は何を想い
眠るだろうか

人の汚れに触れ
消された命を想うと
あの夜空にきらめく
ひとつひとつの灯りに
どうしても重ねてしまうものがある

綺麗に生きても
報われることのなかった
魂の痛みを
理不尽に奪われた
魂の悲しみを

この地上で惜しくも
道半ばで朽ちてしまった
生きとし生けるもの達が
最後に笑えるよう
せめて、安らかな場所を
せめて、それらを癒すべき場所を

どうか、せめて
輝く天体に見る
あの天国という場所を
僕はまだ願わせて欲しいのです




  

2010年8月24日火曜日

空き缶

  

カランコロン
転がる空き缶が
コンクリートを叩く

知らない風が
何度目かの朝を追っている

誰の面影もない街を
カランコロンの音だけが
響いている

なぜか曇り空が不思議と悲しい
あの季節はまだ続いている

このままどこかへ
カランコロンと
落ちていくのか

知らない風の行方が知りたい
向こうの方で
花びらが舞っている

カランコロン
転がる空き缶が
コンクリートを叩く

ただ
カランコロン
カランコロン
カラン
コロン

この缶は誰が飲み干した?




  

2010年8月23日月曜日

 

迷彩のように
運命は紛れる
手の平で遊ばされるように
僕は踊る
時計が止まりだした時から
宇宙は動き出した

隙間だらけのパズルのように
世界は形を見せない
昨日見た夢が
壁の向こうを伝っていく

君は嘘をついたのか?

空の上の星屑の住人
溜息が君まで伝わるだろうか
騒がしく炎は燃えたぎっているよ
誕生日はもうすぐなのに
この週末は終わらない
止まったままの時計が
悲しみを刻んでいる

僕はあの日
こんな世界の中心に放り出されて
君は防波堤に打ち寄せた
波のひとしずくに過ぎない裏切りを
いくつも隠し持っていた

まどろむ月に照らされて
救いようのない朝を待つ

空の上の星屑の住人
溜息が君まで伝わるだろうか
騒がしく炎は燃えたぎっているよ
誕生日はもうすぐなのに
この週末は終わらない
止まったままの時計が
悲しみを刻んでいる

君は嘘をついたんだね
僕はあの日
こんな世界の中心に
放り出されてしまったんだから




  

2010年8月22日日曜日

重力

  

いつかの蒼い石垣を戻り
さらにその奥にある
宇宙の記憶

夜行性の虫達は
共鳴するように
やがて鳴き始めた
黒い空の白い星を見つめながら
空の果てにある答えの
重力に耐えきれないのだろう

今宵も愛は光っているんだ





  

2010年8月20日金曜日

有り触れた話

  

とある千もの話の中の
とある僕等は有り触れている

だから朝を信じた
だから光りを信じた

あれから
十代も終われど
まだ僕は青く苦い

とある千もの話の中の
とある僕等は有り触れている

だからまだ星を信じている
だからまだ夜を信じている
だからまだ僕は青く苦い

あれから
十代も終われど
まだ僕は青く苦い




  

2010年8月15日日曜日

無色

 

覚えた感情は
様々な色をしているが
いつかそれらは色を失い
空白へと還る

「涙」が「涙」でなくなる時
悲しみはどこへ向かうだろう

「心」が「心」でなくなる時
願うべき想いは消えていくだろうか

「生」のない「生」の中で
心や思考は色を失い
時の流れも
忘却に沈むのだろうか





 

2010年8月13日金曜日

虚ろげな空

  

上昇気流に舞い上がるシャボン玉が
ねじれた風の糾弾によって
割れてしまった一瞬の波紋は
軽い痺れの余韻を残した
この世の全ては
わずかな雲の切れ端に過ぎないという事を
エミルサラーの絵本が教えてくれる

しかし、何とも惨めである
相も変わらないんだ
生まれてきた事を憎んでいる
そんな、つまらない想いでしか
悲しみをぶつける場所が見当たらない
だが、それも
自慰行為のあとのように
過ぎ去ればまた、満ち足りない

虚ろげな空に培養された沢山の雲が
泡沫のように流れていくのを
僕は些細な情景にさえも媚びるように
侘びしく眺めている
何かを心に残してくれないものか、と

まるで平常心ではいられなかった
午後の事
嫌いな春風に当たりながら
空を見上げていたら
少し笑えてきたよ




  

2010年8月10日火曜日

2時44分

 

動くことをやめている
電池の切れた時計は
真夜中の2時44分のまま

地球は回っているが
時計は一瞬を刻み込んで
そのまま変わろうとしない

動くことをやめている
真夜中の2時44分で
止まっている

夜は生き続けているが
時計は動かない
大きな岩のように
微動だにしない

動くことをやめている
時は永遠にそこにある

小さな今を包むように
朝の訪れも、季節さえも
もう必要ないように

動くことをやめている
消えてしまうはずの2時44分は
そこにあり続けている




 

2010年8月9日月曜日

悲しい涙

  

悲しい夜を越えて
悲しい朝が来る
悲しい日々の中で
悲しい心は地を這いずり
悲しい明日は
悲しみの中で








僕は
今も泣いているんです





  

2010年8月5日木曜日

流れる空

  

空は透明に流れてゆく

勇み足で去るこの世界を
無視するかのように
笑いもせず、泣きもせず
透明に流れてゆく

僕は思い出を
そんな空に描いて
消えてゆくのを
じっと見つめていた




 

2010年8月4日水曜日

人間

  

他者と向き合う術を知らない

自分と向き合う術を知らない

自分の心に愛がないという事実は
あまりにも苦しい

この人生のすべてにおいて
世界は僕ひとりでした
この心は
誰の心も見ようとしなかった

水面の波紋のような
感情の揺らめきが
不愉快に頭を叩いてます

心は疲れ、ひざまづいた思いの中で
それでもなお
僕は人間で在りたいと願うのです




  

2010年8月3日火曜日

秋の日の天気

  

郷愁の湖にゆらめく
わずかな落ち葉の
乾いた葉脈を想う、ある秋の日

紅葉とは裏腹な世界の色を
見つめる雲の吐息が
国を伝いここまで来る
背骨の曲がった足跡は
それに消されては
雑草が生えていく
置いてけぼりにされた実感は
また一つの星を飲み込み
その病の重さを表している

すでにこの体を
地上に締め付ける鎖は
だいぶ緩くなっていることに
枕の上で跳ねる
恐怖と悔しさ

それでも
生まれ落ちたあの秋の日の天気が
思い出せず
まだ追いかけ続ける

それは
十八センチの物差しでは
計りきれはしない




  

2010年8月2日月曜日

真夜中にて

  

きっと僕は悲しんでいました

なんだか長い夜でした
風の過ぎ去った後の空は
おそらく澄んでいました

泣きました

多分これは、いつもと同じ夜でした
訪れる明日の色は何色なのか
漠然と考えていました
真夜中は静かでした

泣きました

きっと僕は悲しんでいました
コーヒーを飲みました
タバコを吸いました
音楽を聴きました

泣きました

ただ、泣きました




 

2010年8月1日日曜日

その

 

その領域は広がり
その痛みは動力を燃やし
その鍵は不明で
その虫は腹を回り
その煙は管を通り
その雫の波紋は歪み
その向こうは塀に閉ざされて
その声は言葉を越えて
その溝から溢れ出て
その尾は海を叩き
その核は殻を破り
その彼方に問い
その角膜は光りを反射し
その混濁の中で
その羽は墜ちていく





  

2010年7月30日金曜日

風は霞む

  

終わりの言葉を知りたい
長く続いているこの夜で
最後の言葉となるべきものを

もう、何も言うなと
口を塞ぐように風は霞む

あえてまだ
光りの予感などなかった
不都合に星を帯びた雲が
昨日を鈍く掴むばかりに
道筋をなしている

人間は死して
夜空を照らす星となるのなら
何の輝きも持ち得ないこの魂も
いつかの夜空で輝くだろうか

もう、何も言うなと
口を塞ぐように風は霞む

こんなにも愚かしい
幾夜もの魂を抱いて
この世に存在していいものか、と
そんな審判の下で
どうか、ふるいにかけて欲しい

もう、何も言うなと
口を塞ぐように風は霞む

もうすぐ不毛な時を
照らしていた月は
不満気にも落ちていくだろう

もう、何も言うなと
口を塞ぐように風は霞む

はじまるはずのない朝が
また無情に始まる

もう、何も言うなと
もう、何も言うなと
口を塞ぐように
風は霞む





  

2010年7月29日木曜日

帆船の上で

  

夜に染まりはじめる場所で
呼吸すら不器用に漂っている何かを見た

残り少ない金色に惹かれ
しわがれに漂う海屑と共に
頼りなく揺れる帆船の上

名もなき冒険者の声が聞こえる
潮風にも似た優しさで
声が聞こえる

しわがれに漂う海屑に
回帰するのは
見覚えのある
いくつかの残骸か

あれはイルカの尾を
追いかけていた朝の残骸か

あれは鳥さえも憧れた
うろこ雲の残骸か

小さな渦潮にのまれながら
世界を知らずに冒険していた
ある日の残骸か

指を伸ばし
その残骸をすくい上げた手の平は
震えている





  

2010年7月28日水曜日

樹木の葉脈

  

やがて、いつからか
昨日が詰まった樹木の葉脈に
閉じこめられてしまった

その憂いた眼差しを
ひたすらに泳がせて
悲しみは何処へ

他者がいじめる
他者が愛してくれる
他者が通り過ぎていく

なにかの忘れ物ばかりが
眉の辺りをかすめて消える
あれらは何処へ

消えてなどくれない風は
ずっとこの瞳で揺らいだまま
君は何処へ

自分の中にいる他者と
他者の中にいる自分と

この夜にある真実は
樹木の葉脈に
閉じこめられてしまった世界で
心は皆、
孤独を詠っているということだけ




  

2010年7月23日金曜日

小さな光

  

小さな朝の光は
誰にも気付かれないよう、密かに灯る

懺悔のための夜が
いくつかの涙を抱えたまま
閑散とした空へ逃げていく

静かな地帯で浮かび上がる心の模様は
輝きの片鱗に触れ、問いかける
命や、愛情や、生や、それら

そうして
眠りを忘れた詩人たちは
言霊が見る夢を追いかけている

小さな朝の光は
誰にも気付かれないよう、密かに灯る

けして触れることの許されない、美しい灯

いつか、正しい心の形を見つける時
その小さな朝の光のようで在ればと、願い

いつか、正しい心の答えを見つける時
その小さな朝の光のようで在ればと、願い

そんなとある静寂

この地球上で、一瞬のひかり




 

節目

  

辛うじて認識できるほどの儚い光を
夜空の片隅に見つけた時
感じることの出来るわずかな共鳴

冷えた季節の中を、新しい空気が流れ
淡い息づかいは、心と世界を繋いでいる

無意識な情景の中で
唐突に重なる思い出の破片を
迷いながらも、拾う作業

季節の節目の夜は
心が揺れる

やがて、さりげなく時は進む




  

2010年7月16日金曜日

傍観者

 

君は君に気付かないふりをして
流れていく

広がる無関係な世界では
おそらく今日も
愛以外の情報が溢れているに違いない

空が青いと言う事しか
この世界について知らなかった

そんな想いは
歳月が奪って行って
季節は流れて行って
今、心に残ってるものは何なのか

様々な場所でうねるように動いている世界の
ひとときの傍観者で在ったこと

自分についても、他者についても
世界についても
生き間違えたようた錯覚を
禁じ得ない人生の中で
見つけてしまった歪みのようなものを
どうか、お許しください




 

2010年7月14日水曜日

5月の叙情

 

昔、頬杖をついて
退屈そうに雨音を留めていた
昼下がりの窓際

あの5月の叙情が
すべての今であって
過去の涙であり続ける

忍びないほど随分と
時は経ったが
打つべきピリオドを
見逃してしまったようで
今も窓際は変わらない

生まれてゆくもの達を
祝福するべきなのか
消えていくもの達を
悲しむべきなのか

無慈悲なまま漂う君は
窓の向こうの
鳥さえ飛ばなくなった空の片割れで
今日も頬杖をついている
時は時を忘れ
過去も未来も生き続け
雨は同じ色で降り続く

昼下がりの窓際
未だにここは
退屈そうに雨音を留めている

この5月の叙情が
すべての今であって
未来の涙であり続ける




  

鎮魂

 

それは、消えそうで消えない
表現という名の灯火を
「詩」という不愉快な行為で
満たしていた季節なんだ。





 

2010年7月13日火曜日

天窓

  

囚われた日を
天窓の隙間に見つけたとして
僕は眺めている
晩から降り続いた雨が
きめ細やかな滴りで朝を覆うまで

囚われた日を
天窓の隙間に見つけたとして
僕は羨んでいる
昨日、通り過ぎた山のふもとで
川のせせらぎに耳をすます蝶々が
夢の中で羽ばたいていたのを

囚われた日を
天窓の隙間に見つけたとして
僕は数えている
憶えてしまった悲しみ以外の感情が
心地よいほどの過ちを
雨の数ほど残しているから

どこまでも連なり
小さな正方形に収められた
ひとつひとつ

囚われた僕も、また
消えることのない
それらすべてを
見つめることしかできなかった

けして触れることのできない
忘れがたい風景を
その天窓の隙間に




  

2010年7月7日水曜日

暮れの海

  

途方にくれた虚しさが
西の彼方に沈んで行く
旅の行く末は
今そんな時
単色の風景が目にしみる

何かもわからない
大切な何かは
波にさらわれた
それは陽に照らされて
暮れの海辺は宝石を
身につけたよう

本当に綺麗な
その海を
見つめては
失ったものを
想う涙
引きつった顔に溜まる油を
流すように
たくさんの涙

もう
このままずっと
泣いていよう
全て洗い流すまで
暮れの海辺も
夜の海辺も
ずっと綺麗でいるだろう
生温い弱さも
全て洗い流すまで
このまま
ずっと泣いていよう




  

2010年7月6日火曜日

その空に

 

凍える風は
雲の彼方へ吹き去っていく
何かを追い求めるように

生や死を
病んだような空が
語りかけている

もしくは病んだ心が
空に語りかけていたのだろう

宛もなく広いその空に

生きることを
死ぬことを
不毛に描いたその空に

その空に




 

悲しみの置き場所

 

描いた悲しみの
置き場所がありません

世界の終わりのように静かな夜は
空っぽのようで
沢山のものが溢れている

月の光すらも届かない夜の片隅まで
くだらない想いで
埋まっている

だから僕は、また一つ
希望を捨てました

もうここには
置き場所がないので
夜空の向こうへ捨てました




 
 

朝の色

 

退廃していく世界を共有していた彼等が
普遍的な夜の終わりのように
この世界から消えてゆく時
次に訪れる朝の色が
彼等の知らない色で在ればいいけれど

変わるはずもない世界は
あまりにも繊細で
あまりにも悲しい




 

遠い想い

 

誓えるはずもない未来を
信じて疑わずに
風の行方を追いかけていた

語れるはずもない愛は
いつでも悲しい色をしている

笑えるはずもない表情で
一体、愛の何を表現出来ただろう

共有出来るはずもない命の孤独を
心の奥に抱えながら

戻れるはずもない過去は
不愉快なものばかりで
記憶から削除したいけれど
そのあまりの美しさに
僕は思い出を手放すことは出来ずにいる




 

2010年6月29日火曜日

掲げた手

  

遠い北の彼方に
ひときは輝く光がある
僕は夜空に手を伸ばして
手の平を大きく広げて
そして
親指から
人差し指から
中指から
薬指から
小指から
穏やかに手を握りしめる

光は
あまりにも綺麗で
あまりにも遠い

僕は
手の平を大きく広げて
そして
親指から
人差し指から
中指から
薬指から
小指から
穏やかに手を握りしめる
そして掲げた手を
悲しくおろす

まだ世界は暗い
夢では足りない渇きが
眠りを遠ざける
ひときは輝く光だけが
北の彼方にある

僕は夜空に手を伸ばして
手の平を大きく広げて
そして
親指から
人差し指から
中指から
薬指から
小指から
穏やかに手を握りしめる
そして掲げた手を
悲しくおろす




  

2010年6月26日土曜日

昼下がり

  

休日の昼下がり
空が溶け出したように雨が降る
ハイボールの泡みたいな窓の外
雨音の子守唄は
時計をさかのぼり
いつかの昼下がりの雨を見つめて
頬杖をついた子供を映し出す

僕は
生まれた時から
この景色を覚えている

そして僕は
生涯を終える前夜まで
この悪夢にうなされるのだろう




  

2010年6月16日水曜日

春を詠おう

 
 
疲れた心は穏やかに
季節の流れを見つめてる

今この時も
風景が過去へ変わりゆく実感を
僕は確かめている

すでに夜の終わりが見えている

残り火となった季節の冷たさを
4月の風が暖めていく

穏やさの中で、全てを許し
春を詠おう

癒えない傷に顔を歪める必要もない
遠い場所で季節は流れている

もう僕は
漠然とした死の中にいるのだろう




 

2010年6月15日火曜日

悲しい声

  

今この時に
胸の中で唯一存在する
痛み
大切な何かは
鳥のように羽ばたきゆく
見えぬどこかへと

悲しい声が聞こえるかい
この部屋で爆音のごとく
流れる声が

誰の耳にも届かない
悲しい声
秋の永遠に揺れている声

君は何のために叫ぶのか

今この時に
胸の中で唯一存在する
痛み

悲しい声が聞こえるかい
誰の耳にも届かない
悲しい声が




  

2010年6月14日月曜日

終着

 

星と星とが切り離されて
また一つ、星座を見失った

空は流れ、季節は移り
世界は変化をやめない

茫然と立ち尽くし
何も表現できず、何も生むことなく
時代は過ぎていった

悲しみすらも慣れてしまうほど
夜は過ぎていった

星は新たな光で
空を埋めるだろうか

癒えることのない風穴へ
醜さすらも抱きしめて

もう大丈夫

少し優しい思い出が
胸を掴んで放さないけれど
傷つくだけの毎日に
立ち止まっているくらいなら

終わりへと歩いてゆける




 

2010年6月13日日曜日

夜の歩き方

 
 
幸せの生まれない夜は
空を見上げたくなる

悦びの生まれない夜は
居場所を探すかのように
星を見つけたくなる

笑顔の生まれない夜は
孤独を愛するように
月を見つめたくなる

そんな感傷に寄り添うことで
夜を正当化する日々

もう疲れた

時はいつも間違えることなく
夜を連れてくるけれど
過ぎた夜は空白に近く
何も残ってはいない
何も生まれはしない

悲しみしか生まれない夜が多すぎた
そろそろ新しい夜の過ごし方が必要だ

夜の歩き方を教えてください

夜の歩き方を教えてください

夜の歩き方を教えてください
 


 
 

2010年6月10日木曜日

一つの日常

 
 
いつものように
誰の手も届かない場所で
世界を眺めている
あの雲

心を置き忘れた午後の風景は
過大な演出もない

そこには
等身大の自分と
美しくもなく
汚くもない世界と
狂いそうで狂っていない時間の流れ
そしてあの
雲、雲、雲

それは
夢もなければ
絶望もなく
ただ真実だけを映すように
ただそこに



 

2010年6月9日水曜日

沈んだ夕焼け

 

病みきった想いに触れて
癒せない痛みがそこにある

涙のように沈んでいく空

夕焼けに映し出される
切なさの断片は
儚い余韻を残して
暗い夜へと消えていった




 

言葉と感情

 

今、この空の憂鬱な表情が
心に何かを残してくれるまで
言葉と感情を繋ぎ止めていてください

雲は誰も知らない国へ流れ
刹那的な世界の断片は
言葉を映す暇もなく、流れていく

そして、重ねた悲しみまでも
消えてしまうだろう

もしかしたら、僕が僕で在ることすら
消えてしまうのかもしれない

昨日は空白へと向かっていく中で
明日が眠りを迎えるまで
世界が残してくれる何かを
僕は、忘れないでいられるだろうか

すでに過去へ変わり続ける
今この一瞬は
次の季節へ持っていくことは
出来ないのだから
悦びも優しさも悲しみすらも
全ては時の中で
消えていってしまうものだから

今、この空の憂鬱な表情が
心に何かを残してくれるまで
言葉と感情を繋ぎ止めていてください




 

2010年6月6日日曜日

完結しない物語

 
 
全てを捨て去る時
死が僕にとって唯一の居場所になり
悲しみのない、悦びのない
無表情な大地の傍らで
完全な眠りへと墜ちるだろう

全てを受け入れる時
生という氾濫した渦の中で
悲しみやら、幸せやら、怒りやら
刹那的に生み出され続ける
情報の一つ一つを
処理し続けていかなければ
ならないだろう

死という孤独を
受け入れるか

もしくは、生という孤独に
耐えてゆけるのか

苦悩のない世界は、どこにもなく
永遠に完結することのない物語を
人は歩いていく

共有し合うことの出来ない孤独を
満たしてあげることの出来ない孤独を
どこまでも、どこまでも、と




 

ひとつ

 
 
真夜中の月が照らす先に見えたのは
世界の孤独

満たない感情の隙間を
愛で埋められるのなら
こんな夜は、誰を想おう

いくら見上げても
消えることのない無数の灯りは
おかしいまでに儚く
それでいて優しい

静寂に包まれた世界の粒子までもが
一つ一つ、ひっそりと孤独を詠う

遠い空の向こうに在るであろう朝が
来ないことを願いながら
美しい月の光りに照らされて

こんな夜は、誰を想おう




   

2010年6月5日土曜日

そして

 
 
月の灯りだけが真実になった時
流す涙も乾いていた

全てが風化状態にある世界の終わり
心は弱さを引きづり思考の強さと差が生まれる

僕は悲しかった

人は孤独だった

どんなに意識を外しても
人間の根底にある弱さからは逃れられない

だから、人は表現をする

人は夜空を見上げる

人は人を求める

そして僕は、詩を詠った